世界最大のデジタル技術見本市「CES」特集。
前回につづいて、実は、CES 2023で最も重要な講演かもしれない:
…から、メタバースについてのアドバイス。
今回の座談会では唯一の女性のジャネット・バリス(Janet Balis)さんは2014年から現在まで8年以上もハーバード大学ビジネス・スクールでアドバイザーもされていて、ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)でも、例えば、こんな記事を書いてます:
この記事は、まだメタバースへの期待が高かった、昨年2022年1月3日付。聡明な人物が分かりやすく書いてくれたハーバード・ビジネス・レビューに掲載される記事ということもあってか、メタバースという分かりにくい話題のわりに、とてもスラスラと読める、ごくごく当たり障りのない内容です。
一応、軽くその内容を見てみると:
The basic idea of the metaverse isn’t complicated. Put simply, the metaverse includes any digital experience on the internet that is persistent, immersive, three-dimensional (3D), and virtual, as in, not happening in the physical world. Metaverse experiences offer us the opportunity to play, work, connect or buy (and just to make things extra fun, the things we buy can be real or virtual). It is also perhaps a misnomer to say “the metaverse” as if it were a monolithic, connected, or even interoperable universe, because it is not.
メタバースの基本的な考え方は、複雑ではありません。簡単に言えば、メタバースとは、インターネット上のあらゆるデジタル体験のうち、永続的で没入感があり、3次元(3D)であり、物理世界では起きないような仮想的なものを指します。メタバースは、私たちに、遊んだり、働いたり、つながったり、買ったりする機会を提供します(さらに楽しくするために、買うものは現実でも仮想でもかまいません)。また、「メタバース」を、あたかも一枚岩の、つながった、あるいは相互運用可能な宇宙であるかのように言うのは、おそらく誤用でしょう。
Each entity that creates a virtual world does so with its own access, membership, monetization rights, and formats of creative expression, so the business and technical specifications vary widely. The metaverse refers more to the concept across these individual worlds and experiences and the acknowledgement that we are entering into a more substantive, immersive landscape than ever before.
仮想世界を創造する各主体は、独自のアクセス、メンバーシップ、マネタイズ権、クリエイティブな表現形式を持つため、ビジネスや技術的な仕様は大きく異なっています。メタバースとは、このような個々の世界や経験を横断する概念であり、私たちがこれまで以上に実質的で没入型のランドスケープに入り込んでいることを認識することを意味します。
いかがでしょう。表現の節々から、筆者の頭の良さが伝わってくる、ごくごく当たり障りのない、薬にも毒にもならない記事ですよね(なので、皆さん、別に原文を読まなくてもぜんぜん問題ありません)。
ただ、以下のような感じでこの記事の一番最後に、『いかにして創造性とストーリーテリングを発揮するかについて考えはじめることが最も重要』と、今回のCESの講演のテーマである『ストーリーテリング』について、1年以上も前から指摘しているのは、なかなかすごいなぁ、さすがだなぁ…と感じさせられます。
Most importantly, people in brand marketing or leadership roles should start thinking about how to unleash their creativity and their ”storytelling”.
最も重要なことは、ブランドマーケティングやリーダー的役割を担う人々が、いかにして創造性と「ストーリーテリング」を発揮するかについて考え始めることです。
さて、それから1年ほどの間に、うちのブログで指摘しているだけでも:
…などなど、メタバースのうさん臭さは、結構、広く世間に認識されるようになったと思います。
今回のCESの他の講演の中には、「メタ社(ザッカーバーグ)の言うメタバースは嫌い」、「あれはメタバースじゃない」とハッキリ言う業界の専門家の方々もご登壇され、また、「結局、なんでもかんでもメタバースになりえるのなら、メタバースという言葉は意味がない。メタバースなんてない。」という1種の結論的なものが出るメタバースをテーマにした講演もあるほどです。
分かりやすいところで、例えば、この講演:
3分39秒、Metaのやってるメタバースはくそ。あれをメタバースとは呼びたくない。嫌いだ。みんなメタバースと聞くと、Metaのやってるメタバースだと思うが、そうじゃない。技術の話が多いが、実際の実用例は乏しい。例えば、NFLのチケットをチケット販売店に行かずに買える、これがメタバースだ。Whatever good for consumers in many different ways.で、メタバースだ。
4分30秒、メタバースという言葉にこだわりはないね。マーク・ザッカーバーグについてそんなに考えたこともないし。メタバースとは、デジタルなインターラクションであり、デジタルなエンゲージメントのこと。ペロトンに乗っているのも、メタバースだし、ズーム会議に出るのもメタバースだ。デジタルな世界をつかって人々をコネクトする、あらゆる場面で、異なる方法で、それが、僕にはメタバース。
5分10秒、スマホいじってる人、それはもうメタバースにいるの。今や私たちは、デジタルな空間を一日中、ずっと使っている、人々のつながりを作り出している、それがメタバース。今後さらに進化すると思うけど、何かものすごいものができて、メタバースってなるんじゃなくて、今すでにあるもの、例えば、ツイッターでも、すでにメタバースだと思う。
6分2秒、そうなると、もしなんでもあらゆるものがメタバースってことだと、それはつまり、メタバースは何もないってことになるのでは?メタバースによる成功例を見ていきたい。成功例の前に、メタバースは混乱しているということについて。進化中だから混乱する。インターネットだってバブル崩壊はあった。8分、ケイオティックかは、消費者が決める。結局、ブロックチェーンと同じで、技術として確固たるものがあれば残る。その際、リアルな世界の価値あるもの(小売店舗とか)の価値をさらに高めるなどにより。
そんな1年を経まして、「ストーリーテリングと未来」と題されたこの講演で、ジャネット・バリス(Janet Balis)さんさんは、メタバースに関してどのようなことをお話されているのでしょう?
なにしろ、1年前のまだメタバースが何なのか世間がよくわかっていなかった頃から、上述のような記事をあのハーバード・ビジネス・レビューに書いてほどのお方ですからね。
それでは、以下、お楽しみください。
Benjamin Blank: So the future. Data, Web 3, how should we be thinking about content as creators? How should we be preparing for it? What is the best approach? Evan, I'll start with you on this.
ベンジャミン・ブランク(司会):そんなわけで、これからの未来。データ、Web3、クリエイターとしてコンテンツをどう考えるべきか?どのように準備すべきなのか?どのようなアプローチがベストなのでしょうか?エヴァン、まずは君からだ。
Evan Shapiro: Yeah, I think it's experimentation. I think we're in Web 2.5 on Roblox and Fortnite and Minecraft right now, and you look at what Ariana Grande and Marshmallow and Trev Scott all did on Fortnite and Bieber. And I don't see a lot of other genres experimenting in these ecosystems.
Why are we not trying that out now? Why is there no stand up comedy in Fortnite? Why are we not seeing The Masked Singer or some other show? At least player fuck around with it. You don't have to build your own metaverse to start experimenting in this new art form. And I think you're going to see these metaverses, these platforms open up new storytelling possibilities and attract new audiences to art forms that wouldn't have gotten to them otherwise. Because, you know, it's very hard to get through to a 14 year old right now because they're paying 9 hours of Minecraft or 9 hours of Fortnite in a row.
But if you can invade that system with something that a story that they haven't heard before. Yeah, I mean, imagine the next chapter of John Wick is taking place on Fortnite or in one of these little ecosystems. I'm not saying that's where it's all headed, but to not be playing around with it now. And I don't see publishers other than music,I don't see publishers and other than marketing.
Like, NFL has the most popular skin in Fortnite, but that's not storytelling, that's merchandising. Right. So I think we're sleeping on a great opportunity right now.
例えば、NFLはFortniteで最も人気のスキンを持っていますが、それはストーリーテリングではなく、マーチャンダイジングです
エヴァン・シャピロ:そうですね、実験だと思います。今、RobloxやFortnite、MinecraftではWeb2.5が行われていて、Ariana GrandeやMarshmallow、Trev ScottがFortniteやBieberに対して行ったことを見てみましょう。他のジャンルがこのようなエコシステムの中で実験しているのを見ることはあまりありません。
なぜ今、それを試さないのか? なぜフォートナイトにはスタンドアップコメディがないのでしょうか? なぜThe Masked Singerや他のショーを見ないのでしょうか? 少なくとも、プレイヤーはそれで盛り上がります。この新しいアートフォーム(芸術のかたち)の実験を始めるのに、自分自身のメタバースを構築する必要はないのです。 このすでに存在するメタバースやプラットフォームが、新しいストーリーテリングの可能性を開き、他の方法では得られないようなアートフォームに新しいオーディエンスを引きつけるのを見ることになると思うのです。なぜなら、今、14歳の子どもたちは、『Minecraft』を9時間、『Fortnite』を9時間、続けてプレイしているわけですから、それ(新しいメタバースやプラットフォーム)を理解するのは(物理的に)とても難しいのです。
でも、そのシステムに、彼らが聞いたこともないようなストーリーで侵入することができれば。ジョン・ウィック」の次の章が「フォートナイト」やこうした小さな生態系の一つで展開されると想像してください。それがすべての方向性だとは言いませんが、今、そのような遊びをしないのはどうかと思います。また、音楽以外のパブリッシャーや、マーケティング以外のパブリッシャーも見当たりません。
例えば、NFLはFortniteで最も人気のあるスキンを持っていますが、それはストーリーテリングではなく、マーチャンダイジングなのです。そうですね。ですから、私たちは今、絶好の機会に眠っているのだと思います。
Benjamin Blank: So the metaverse is exciting in terms of it being viable, in many ways, we're a ways off from that adoption. There's a number of roadblocks. When we talk about the future, what is the approachable future right now? How should we be thinking about it? When you talk about opportunities, I think those are the right type of opportunities. Janet, as you think about that and you talk to your team, what are you instructing them to do? How do you think about the future and reasonable opportunities?
ベンジャミン・ブランク(司会):メタバースは、実現可能という点ではエキサイティングですが、多くの点でその採用にはまだ道半ばです。多くの障害があるのです。未来について語るとき、今、アプローチできる未来は何なのか?どのように考えればいいのでしょうか。機会について語るとき、私はそれが正しいタイプの機会だと思います。ジャネット、あなたがそれを考え、チームに話すとき、あなたは彼らに何を指示しますか?未来や合理的な機会について、どのように考えていますか?
Janet Balis: Well, first, for me, 2.5 is just an acknowledgment that you're not going to jump to 3.0 and there are intelligent choices and you're going to use different technologies that are fit for purpose at a moment in time. And so for the foreseeable future, we're going to use 2.0 and 3.0 in the right blend and mix. And I think that's all we're really talking about there.
For me, I think the thing about the Metaverse and Web 3 in particularly as marketers seek to explore it, one, I do agree, we want consumers to lead us and we want to explore that and experiment. We want creators to lead.
But I think for businesses as they go into it, the thing I do encourage is don't just follow the hype cycle. And just because someone else did it doesn't mean you should go do it.
It may not be right for you. You have to figure out your why. Why do you need to go do this? Is there an insight about your audience, your consumer, the "humans" you want to go touch that leads you to believe this is going to be something they're going to connect with?
And I think it's really important to do that. Is it important to your talent agenda? Is it important to your innovation agendas? Is it important to your consumers, your future, your business? If so, then yes, go for it.
And then the other thing I think it's super important is to just make sure that the technology doesn't lead you there. Just because you can doesn't mean you should.
We've seen this so many times. I mean, frankly, you can go out to the convention center, you can see a lot of really wacky use cases because somebody's like, well, the technology can do this, so I'm going to go use it to go do this thing...
ジャネット・バリス:まず、私にとっては、2.5は3.0に飛びつくのではなく、知的な選択があり、その時々の目的に合ったテクノロジーを使い分けるということを認めたに過ぎません。ですから、当面は2.0と3.0を適切に組み合わせて使っていくことになるでしょう。それが、私たちが実際に話しているすべてだと思います。
私自身は、メタバースとWeb 3について、特にマーケターがそれを探求しようとする場合、1つは、消費者にリードしてもらい、それを探求し、実験してもらいたいと考えています。クリエイターにもリードしてもらいたい。しかし、私は企業に対して、ハイプ・サイクル(過剰な宣伝広告)に追従しないことを勧めています。誰かがやったからと言って、自分もやるべきだとは限りません。
それはあなたにとって正しいことではないかもしれません。なぜそうするのかを考えなければなりません。なぜ、このようなことをする必要があるのでしょうか? あなたの顧客、消費者、あなたが触れたいと思う「人々」について、これが彼らの”心をつかむもの”になると信じるに足る洞察があるのでしょうか?
それが本当に重要なことだと思います。それは、人材育成の課題にとって重要ですか?イノベーションの課題にとって重要なのか?消費者、未来、ビジネスにとって重要ですか?もしそうであれば、ぜひ挑戦してください。
あなたの顧客、消費者、あなたが触れたいと思う「人々」について、これが彼らの”心をつかむもの”になると信じるに足る洞察があるのでしょうか?
そして、もうひとつ大事なことは、技術に踊らされないようにすることです。できることだからといって、そうすべきとは限りません。
私たちは、このことを何度も目にしてきました。率直に言って、(このCESの)コンベンション・センターに行けば、実に奇妙な(最新テクノロジーやイノベーションをふんだんに使った)実例をたくさん見ることができます。
Evan Shapiro: Create a digital twin that lives after you die? Why?
エヴァン・シャピロ:自分が死んだ後も生きているデジタル・ツインを作る。でも、なぜ?
Janet Balis: Like... There's not a why. We as humans don't need to do a lot of it. So I think it's really important with the Metaverse and Web 3 to just make sure that we go back to the fundamentals. This is about storytelling. Will it make a "human" connection? Will it be more compelling, more immersive? Will that third dimension make it better? Will it allow you to engage fans or fellow artists or in a more compelling way will allow you to bring people in? Then yes, go for it. If not, it's not the right answer.
I just think it's all of the conversation, whether it's about audience or relevance, it's about just being thoughtful and honoring the craft of storytelling and really just being very bespoke in the decisions and choices that you make. Because if you're deliberate, you can get the right answer.
ジャネット・バリス:例えば、なぜかって… 理由なんてないんです。私たち人間は、多くのことをする必要はないのです。ですから、メタバースとウェブ3では、基本に立ち返ることがとても重要だと思います。それは、ストーリーテリングです。人と人とのつながりを作ることができるか。より説得力があり、より没入感を得られるか?3次元の映像は、より良いものになるのか?ファンや仲間のアーティストを巻き込むことができ、より説得力のある方法で人々を引き込むことができるでしょうか? もし、そうであるのなら、やるしかありません。そうでないなら、それは正しい答えではありません。
観客や関連性など、すべての話題は、思慮深く、ストーリーテリングの技術を尊重し、決定と選択において非常にオーダーメイドであることが重要だと思います。ちゃんと意識的に考えて行えば、正しい答えを得られるからです。
Benjamin Blank: And in some ways it's what is the most basic human utility? Right? How is this making my life better? And then it seems like there will be a plat form or a technology that does make sense to lean into.
ベンジャミン・ブランク(司会):そしてある意味、それこそが、人間の最も基本的な欲求を満たすものなでしょう? そうでしょう? これがあれば、私の生活はどう良くなるのか? そうである場合に、そこに傾倒することが意味のあるプラットフォーマーやテクノロジーが生まれるように思います。
Janet Balis: And if it's not an intuitive journey, if they're not going to figure it out, they're not going to use it. Nothing's going to scale right now.
Part of the problem with the metaverse is it's obviously not at scale in one place, which is fine, and that's not going to change. But the issue is will people be able to take the journey and figure it out? If not, it's probably not going to make sense. Just like something at a store or something on a website or anything else that we experience today.
ジャネット・バリス:直感的に使えるものでなければ、(多くの人々が)使いこなすことはできないでしょう。今すぐに規模を拡大するものではありません。
メタバースの問題の1つは、(その多くが)明らかに1つの場所ですら十分な大きさに成長していないことです。(つまり、まだ極めてニッチ)しかし、問題は、人々が(そのメタバースの世界へと)旅に出て、(その価値や魅力を)理解することができるのか、ということです。そうでなければ、おそらく意味をなさないでしょう。お店やウェブサイト、その他、私たちが今日経験している他のことと同じです。
〔ご参考〕
【CES 2023特集】
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