前回の続きで、イーロン・マスクさんがすべての人に教えるべきと言う「認知バイアス」(cognitive biases)26~50まで。
26. Availability Cascade(利用可能性カスケード)
社会から受け入れられたいという心理に基づき、(根拠がなかったり、事実じゃなくても)公で繰り返し話されること(例えば、ニュース等)から集団的信念が構築されがち。たとえば、「オイルショック時、品不足になるとの噂で、トイレットペーパーが売り切れた」、「ニュースで、ニューヨークでテロが起きたことを聞いた。しばらく海外旅行は避けようと思う。」等。【
利用可能性カスケードavailability cascade どんどん、大ごとに】
27. Declinism(凋落主義、ちょうらくしゅぎ)
過去(昔)を美化し、未来を否定的に見て、社会や制度が衰退していると考えがち。
28. Status Quo Bias(現状維持バイアス)
29. Sunk Cost Fallacy (埋没費用〈サンクコスト〉の誤り、Escalation of Commitment、約束〈コミットメント〉の拡大)
例:In for a penny, (in for a proud)
(イギリスのことわざ:やりかけたことは何がなんでもやり通せ、webster辞書、cambridge辞書)
イギリスに限らず、この手のことわざは日本や中国にも無数にあり、例えば、
初志貫徹(しょしかんてつ):初めに心に決めた志を最後まで貫き通すこと。 ▽「初志」は思い立ったときの最初の気持ち・志。 「貫徹」はやり通す、貫き通すこと
首尾一貫(しゅびいっかん):初めから終わりまで、態度や方針が、ずっと同じで変わらないこと。 意見や主張などをひとすじに貫いて、矛盾がないこと。 「首尾」は、初めと終わり、最初と最後のこと
徹頭徹尾(てっとうてつび):頭から尾まで突き通す意から、最初から最後まで、一から一〇まで、ある一つのことを貫くこと。 「徹」は、貫く
慎始敬終(しんしけいしゅう):「始めを慎(つつ)しみ、終おわりを敬(つつ)しむ」というように、最後まで一生懸命にやり通すという意味
有終之美(ゆうしゅうのび):物事を最後までやり通し、立派な成果をあげること。 「有終」は、終わりを全うすることという意味
賽は投げられた(さいはなげられた):一度こうしようと決め、実行に移した以上、最後までやり抜くほかはない、または、事はすでに始まってしまったのだから、結果はどうなろうとも、断行あるのみという意味
毒を食らわば皿まで( どくをくらわばさらまで):【悪事限定】いったん悪に手を染めたからには、最後まで悪に徹しよう
「最後までやり抜くことの大切さ」を伝えることわざって、他にもまだまだいくらでもあります。「最後まで」じゃなくても『石の上にも三年』みたいなのもありますし。それはつまり、この考え方・感覚は、長い人類の歴史を経てそれなりに何かしらの点において正しいと証明されてきたということなのでしょう。うーむ。果たして本当に『サンクコストの誤り』は、「誤り」なのかなぁ…と考えさせられます。皆さん、いかがでしょう?
30. Gambler's Fallacy(ギャンブラーの誤謬、ギャンブラーのごびゅう)
将来の出来事の確率は過去の出来事によって影響を受けると考えがち。特に、ある事象の発生頻度が特定の期間中に高かった場合に、その後の試行におけるその事象の発生確率が低くなる(あるいは逆に、ある事象の発生頻度が低かった場合に、その事象の発生確率が高くなる)と信じてしまいがちになること。さらに詳しくは、
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31. Zero-Risk Bias(ゼロリスク・バイアス)
大したことのない危険性(リスク)や、小さなリスクでも、そのリスクを0にすることに過剰に拘ったり、そのどうでもいいリスクに注意を集中することで、他の重要な問題の危険性に注意を払わなくなること(逆に、全体としてより大きなリスクを生むこと)。
POINT- 世の中に100%の安全は存在しない。リスクはすべて程度問題だ。しかし、人はしばしばリスクを有・無の二分法で考え、ゼロリスクを求める。
- 専門家はリスクを「起きうる被害の程度」と「確率」で客観的に評価する。一方、私たちは「恐ろしさ」「未知性」という因子でリスクを判断する。
- 進化心理学によれば、人間は合理的判断より直感が優位に立つ。理性を総動員すべきリスク判断でも、その場の感情に流されることが珍しくない。
- リスクのモノサシを作り、その危険度を客観的に「見える化」すべきだ。主観的な「不安感」にはリスクコミュニケーションを解消の糸口に(→つまり、理系的な発想で客観的なデータを提示するだけではダメで、ハイパー高度な「コミュニケーション能力」や「信頼性」(人間性?)が重要になる? でも、そんな人材、どうやって育てられるの?)したい。
感染症、原子力事故、食の安全といった問題では、そのリスクがどの程度なのかを見極め、リスクの大小に応じて柔軟に対処していくことが肝心だ。しかし私たちは時に、リスクを程度と捉えず、安全か危険かの二者択一で考えてしまう。果ては実現不可能なリスクのない状態(ゼロリスク)を求める。こうした人間心理を十分考慮した上で、リスクを「見える化」し、当事者間の対話を重視したい。それは、私たちが次なる緊急事態へ対処するために重要な一歩になるはずだ。【読売新聞 調査研究 ゼロリスク幻想との決別 2021/07/30】
同志社大学の中谷内一也教授(リスク心理学)は、がんや交通事故、火事など一般の人がイメージしやすいリスク要因で比較一覧表(表2)を作り、知りたいリスクをそれに当てはめることで、どの程度かを「見える化」する手法を提唱。表2は年間死者数で表しており、中谷内教授が例として挙げたのは、年によって死者数が大きく増減しない項目。中谷内教授への取材では、新型コロナは出現して1年余りということで、今年以降の死者数が減る余地があるとみられる。すなわち、先述した「死者数データの年変動が少ない」との条件に適合しうるのか明確にはわからない段階だという。<中略>10万人当たり3・46人という年間死者数の多寡は数字単独では判然としない。比較表によれば、暫定値ではあるが交通事故や火事よりも死者は多い、となる。【読売新聞 調査研究 ゼロリスク幻想との決別 2021/07/30】
32. Framing Effect(フレーミング効果)
私たちはよく、どのように情報が発表されるかによって、たとえ全く同じ情報でも、異なる結論を導きがち。フレーミング効果とは、どこを強調して表現するかによって問題の印象が変わり、意思決定が影響される心理現象のこと。商品が売れる確率を大きく左右するため、マーケティング分野で活用されています。
たとえば、以下の2つの文では、意味するところは同じでも、受ける印象は異なるのではないでしょうか:
- この手術は95%の確率で成功します
- この手術は5%の確率で失敗します
あるいは、確率(データ)はまったく同じでも、印象が異なるのではないでしょうか:
- 45%という支持率で、周りから高く評価されている
- 45%という支持率で、周りから低く評価されている
33. Stereotyping(ステレオタイプ化)
私たちは、個々に対する情報を全く知らなくとも、ある同じグループに属する人々が、共通の特徴を持っていると信じがち。
ステレオタイプとは、多くの人に浸透している固定観念や思い込み(先入観、レッテル、偏見、差別)などの類型化された観念のこと。 例えば国籍・宗教・性別など、特定の属性を持つ人に対して付与される単純化されたイメージがそれに該当する。 アメリカの著作家・政治評論家であるウォルター・リップマンによって提唱された概念。
34. Outgroup Homogeneity Bias(外集団同質性バイアス)
私たちは、自分と違うグループに属する人たちは皆同じとみなし(自分の所属する集団に比べて他の集団の同質性を高いものとみなし)、一方で自分と同じグループに属する人たちはより多様だとみなしがち。これにより外集団に対するステレオタイプ的な判断が過大評価される。さらに詳しくは、
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35. Authority Bias(権威バイアス)
権威のある人や専門家の言動・意見はすべて正しいと思い込み、より信じて、深く考えずに影響されがち。
前回ご案内した22. Confirmation Bias(確証バイアス)や、33. Stereotyping(ステレオタイプ化)などと同じく、アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)の典型例。まぁ、でも、今回取り上げている認知バイアスは、すべて無意識バイアスだと思うけど…【女性がリードする福岡の未来 D&I and You アンコンシャス・バイアスって何?】
36. Placebo Effect(プラセボ効果、プラシーボ効果、偽薬効果)
もともと医療用語。効き目ある成分が何も入っていないくすりを服用しても、患者さん自身が、自分が飲んでいるくすりは効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善することがあります。 これをプラセボ効果と呼んでいます。実際には根拠がなくても信じていると、その信念が本当に効果を生むこと。【
プラシーボ(偽薬)効果はなぜ起こるのか――専門家が究明に動く Wired.jp 2004.03.16】
37. Survivorship Bias(生存者バイアス)
私たちは、最終的に生き残ったものだけを考え、他の生き残ることができなかったものは無視しがち。何らかの選択過程を通過した(つまり、生き残った)人・物・事のみを基準として判断を行い、その結果には該当しない(つまり、生き残れなかったり、失敗した)人・物・事が見えなくなること。選択バイアスの一種。さらに詳しくは、
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例として、第二次世界大戦時の「戦闘機のどの部分を補強すべきか」の議論が挙げられる。軍は戦闘から帰還した飛行機の損傷が多かった箇所を重点的に補強しようとしたが、撃墜された飛行機の損傷状況をまったく考慮していないため、不適切な判断である。戦闘から帰還した飛行機の損傷箇所だけをもって安全性と関連付けるのは誤った判断であり、「帰還飛行機の損傷箇所は致命的ではない箇所」「損傷を受けていない箇所こそが補強すべき箇所」という評価はどちらも不適切である。【シマウマ用語集 生存者バイアス(生存バイアス)】
38. Tachypsychia(タキサイキア現象)
突発的な危険状態に陥った際に、一瞬がスローモーションのように感じる現象のこと。私たちの時間に対する感覚は、トラウマや薬物の使用、また身体的な活動によって影響を受けがち。
えーと、ただし、これはバイアスじゃなくて、以下の通り、日本の千葉大学認知心理学研究室によって、2016年に世界で初めて科学的に確認されてるそうです。
「視覚の時間的な精度が上がる」ことは、過去の研究では確認できていませんでしたが、今回、千葉大学文学部認知心理学研究室(公式プレスリリース『『「危ない!」の瞬間、全てがスローモーションで見える』は正しかった! 千葉大学、強い感情が視覚の“時間精度” を上昇させることを世界で初めて確認』)が、「危険な場面の画像」と「安全な場面の画像」を見せたときの反応を調べたところ2つの違いがありました。危険な場面を見ているときは「見ている画像の変化に素早く気付き」「1秒を長く感じた」のです。【『「危ない!」の瞬間、スローモーションに見える』を千葉大が確認! 家電Watch 2016年 5月 24日】
39. Law of Triviality (Bike-Shedding、パーキンソンの凡俗法則、パーキンソンのぼんぞくほうそく)
私たちは、より複雑な問題を避けつつ、些細な問題(特に、誰もが理解している、もしくは理解していると自分では思っている問題)に対してより重きを置きがち。
シリル・ノースコート・パーキンソン(英語版)が1957年に発表した、「組織は些細な物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」という主張がもと。パーキンソンがこの法則を説明する際に用いたたとえ話から「自転車置き場のコンセプト」、「自転車置き場の色」または「自転車置き場の議論」などの言い回しで使われることもある。さらに詳しくは、
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40. Zeigarnik Effect(ツァイガルニク効果)
私たちは完了したタスクよりも未完了のタスクを覚えていがち。「“完成されたもの”なんてつまらない」とか「答えや結果が知りたくて仕方がなくなる」など、未完了のことは、完了されたことよりも緊張感が持続しやすく、記憶に残りやすい、という心理現象のこと。
今やWEBの広告やコンテンツ(特に、『あのアイドルが熱愛? 意外すぎる相手とは…』、『あの人気サプリで、あなたの体の中ではこんなことが…!』、『唇がキマらない原因は○○○だった。その悩みを解決する口紅が話題』などなど、タイトルやキャッチ・コピーを考える際)になくてはならないテクニックのもとになってる認知バイアス。【“続き”が気になって仕方がない 「ツァイガルニク効果」 リコーのマーケティング支援 2017/10/03
】ホームページの記事にタイトルをつける際に、ツァイガルニク効果を利用する方法です。
まず以下の2つのタイトルを見比べてみてください。
A:集中力を高めるには時間を区切ることが大切だった
B:誰でも集中力を高められるたった1つの方法とは?
どちらのタイトルがより読みたくなるでしょうか。
Aのタイトルでは「時間を区切ること」とすでに答えが提示されていることに対し、Bのタイトルでは記事を読まなくては答えが分からないようになっています。タイトルにメインとなるコンテンツをあえて含ませないことで、読み手の「読みたい」という気持ちを引き出すことが可能です。【人は未完成なものほど引かれやすい?ツァイガルニク効果を理解してユーザーの興味を喚起しよう マーケターのよりどころFerret 2018年05月29日】
41. IKEA Effect(イケア効果、アイキア・エフェクト)
イケア効果(IKEA effect)とは、自分が作ったものに本来以上の価値を与えてしまう心理効果のこと。これを家具販売の大手「IKEA(イケア)」の家具が組み立てを必要とすることから、そのビジネスモデルにちなんで「イケア効果(IKEA effect)」と呼んでいる。2011年にハーバードビジネススクールのマイケル・ノートン氏、イェール大学のダニエル・モション氏、デューク大学のダン・アリエリー氏によって発表された。
例えば、ホットケーキミックス、近年流行りのDIY(ディー・アイ・ワイ、Do It Yourselfの略語で、何かを自分で作ったり修繕したりすること)、家庭菜園、料理教室、日曜大工、プラモデル、レゴブロック、陶芸(コップやお皿などに自分でペイントするタイプの商品なども)などなど…何かを自分で作ることに対する人気を支える、認知バイアス。
42. Ben Franklin Effect(ベン・フランクリン効果:助けると好きになっちゃう現象)
誰かを助けるとその人に好意を持ちがち。助けてくれた人を好きになるのではなく、助けた人を好きになります。これは認知的不協和によって発生します。認知的不協和(cognitive dissonance)とは、「思考と行動が一致しない感じるストレス」です。「助ける」という行為をするということは、「好意がある」。でないと行動と思考が一致しない。行動はすでに行っている。なのであとは思考をそれに合わせる。これが助けると好意を持つ構造です。【
助けた相手を好きになる 「ベン・フランクリン効果」】
<考察メモ>
- →わざとツッコミどころを残してあるものの方、人の方が、一般的に好かれやすい(可愛げがあると受け止められやすい)?(ツッコミもある種の人助けなので)
- →何かと助けなくてはいけない出来事や、助けられる隙とか余地の多い「ダメ男」の方が、案外、女性にモテてしまう?
米国の100ドル札の肖像画にもなっている物理学者で政治家だったベンジャミン・フランクリンが政治活動で使った戦法だったことからベン・フランクリン効果(Ben Franklin effect)と呼ばれます。【
ベン・フランクリン効果:助けると好きになっちゃう現象になっているEverywhere Psychology March 28, 2016】
43. Bystander Effect(バイスタンダー効果、傍観者効果)
他人がいればいるほど、被害者を助ける可能性が低くなりがち。
44. Suggestibility(被暗示性)
私たち、特に子どもは、質問者から提案されたアイデアを記憶と勘違いしがち。
45. False Memory(偽りの記憶)
私たちは、想像を本当の記憶と勘違いしがち。
46.Cryptomnesia(クリプトムネジア現象、無意識の剽窃)
私たちは、本当の記憶を想像と勘違いしがちでもある。本で読んだり人から聞いたりした話を自分自身が体験したかの様に思い込んでしまうことを精神医学で「無意識の剽窃」(クリプトムネジア現象)と言う。
47.Clustering Illusion(クラスター錯覚、クラスターの錯覚)
クラスター錯覚もしくはクラスターの錯覚とは、サンプル数の少ない場合のランダム分布において必然的に生じるストリーク(線や筋)やクラスター(群れや塊)を、ランダムなものではないと誤判断すること。サンプル数の少ないランダムデータもしくはセミ・ランダムデータにおけるバラつきの程度について、人はそれを過小視しがちな傾向を持っている。それが原因となってクラスター錯覚は引き起こされる。さらに詳しくは、
Wikipediaへ
48.Pessimism Bias(悲観主義バイアス)
49.Optimism Bias(楽観主義バイアス)
私たちは時に、良い結果に対して過剰に楽観的になりがち。
悲観と楽観、どういう関係で、どっちが良いのか…については、以下の指摘がご参考になるでしょう:
哲学者アランが『幸福論』で指摘した「悲観主義は気分だが、楽観主義は意思である」という有名な言葉は、人間とはネガティビティバイアスに影響されている状態が一般的で、悲観を抑え、楽観的に思考するには意思の力が必要だということを簡潔に説明している。【 https://t.co/ZTykcUY20r】
50.Blind Spot Bias(盲点 バイアス)
私たちは自分にバイアスがあるとは思っていませんし、自分よりも他の人にバイアスがあると見がち。
〔ご参考〕
【認知バイアス特集】
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