
コロナ禍の影響で、ニューヨークではいろいろな社会現象が起こっておりますが、
ニューヨークの『超高速の食料品の配達』(Ultrafast grocery delivery)、要するに、宅配サービス業者の間の競争が、ここにきてさらに加熱中。
今年7月、このブログで:
とお伝えしたように、もはや米国生まれの企業だけではなく、外国生まれの国際的なベンチャー企業、例えば、ドイツのベルリン生まれのGorillasや、南米生まれのJOKR、さらにその他にも、ロシア生まれのBuykとか、トルコ生まれのGetir等など、新たな宅配サービス業者がニューヨークに事業進出しているのだとか。
10月後半、ロシア生まれのGopuff(もともと大学生向けに深夜のお菓子や夜食を配達するサービスとして2013年にはじまり、拡大した、このジャンルでは
比較的老舗)がニューヨークに新たに進出し:
この記事内で、Gopuffは:”Planning documents in San Francisco recently revealed a modified dark store format that includes an ordering kiosk for in-store shoppers.”
(サンフランシスコでの計画文書は最近、店内の買い物客のための注文キオスクを含む、改良されたダーク・ストア形式を明らかにしました。)
とのこと。
つまり、『超高速の食料品の配達』サービスでは、その分、余計なコスト、経費をかけないということで、消費者が来店することを想定していない小型の倉庫形式の店舗(これを英語では、ダーク・ストアと呼んでます)が、これまで一般的でしたが、Gopuffは、無人レジなど最新テクノロジーを導入し、そのダーク・ストアを来店客にも対応できるように、「改良されたダーク・ストア形式」(a modified dark store format)に進化させているそうです。
さらに:
と報じられ:
A wave of ultrafast delivery companies has entered New York City and turned the city into a test ground for how fast consumers want groceries and other goods.
超高速配送会社の波がニューヨーク市にやってきて、ニューヨーク市を消費者が食料品やその他の商品をどれだけ早く欲しがるのかをテストする実験場に変えました。
とのこと。
どうやらニューヨークは、『超高速の食料品の配達』(Ultrafast grocery delivery)、要するに、宅配サービス業者が、いろいろと新たな取組をテストする実験場になってきたんですって⁉
上述の記事内から、さらに興味深い指摘を取り上げますと、例えば、Gopuffの共同創設者兼共同CEOであるYakirGolaは:
“When Amazon came out with two-day Prime [delivery], that was the most revolutionary thing,” said Yakir Gola, co-founder and co-CEO of Gopuff. “Now, people want it in 20 minutes. In 10 years, people are going to want it in five, 10 minutes. At the end of the day, people value time, so you have to keep innovating.”
「Amazonが2日間でのプライム[・デリバリー]を発表した当時、それは最も革新的なことでした。」
「今、人々は20分での宅配サービスを望んでいます。 10年後、人々は5、10分での宅配サービスを欲しがるでしょう。 結局のところ、人々は時間を大切にしているので、革新を続ける必要があります。」
とのこと。
この指摘を受け、投資関連情報に詳しいCB Insightsの小売アナリスト(retail analyst)のLaura Kennedy氏は、以下のようななかなか思慮深い考察を述べています:
If ultrafast delivery companies win more customers, they could chip away at competitors’ baskets and reduce shoppers’ trips to the store, said Laura Kennedy, a retail analyst at CB Insights. This happened before, as people began ordering one or two items at a time from Amazon.
“It adds up to a lot of items and then it adds up to not just wallet share, but mindshare,” she said. “It’s death by a thousand cuts.”
超高速配送会社がより多くの顧客を獲得すれば、競合他社のバスケットを削り取り、買い物客の店への外出を減らす可能性があると述べています。 この現象は、人々がアマゾンに一度に1つか2つのアイテムを注文しはじめた(そのお手軽さや利便性により、その後、さらに多くの品々をアマゾンに注文するようになった)ことからも明らかなように、以前も起こっているのです。
「(アマゾンへの注文は)増え続け、そして、人々の財布内のシェアだけでなく、人々の心の中のシェア(マインドシェア)をも獲得するようになります。」 「それは、千回の切り傷による死です。」と彼女は言いました。
※訳者注:”death by a thousand cuts”(千回の切り傷による死)は、英語のよくある慣用句。気づかないくらい少しずつ徐々に殺されること。日本語で言う「茹でガエル」。歌のタイトルなどにもよくなってまして、例えば、人気ポップ・シンガーのテイラー・スイフトも、Taylor Swift - Death By A Thousand Cuts (Official Audio)。
このLaura Kennedy氏の考察の中でも、最も注目したいのは、
『(要するに、今後、『超高速の食料品の配達』サービスが)人々の財布内のシェアだけでなく、人々の心の中のシェア(マインドシェア)をも獲得するようになります。』
という部分。
これは、何事にも通じる真理だと思われまして、経済原理だとか、理論だとか、なんやかんや言っても、人間ってのは、やはり、心で生きておりまして、心が望むもの、心がいいなと思うもの、心が癒やされるもの、心の中における存在が大きいもの…等など、心をつかまれたものの方へ、少しずつ徐々にかもしれませんが、必ず、行動も向かっていくような気がします。
でも、じゃぁ、『超高速の食料品の配達』サービスが、本当にそんなに普及するのか? 心の中のシェアを獲得していけるのだろうか?…と、よくよく考えてみますと、Gopuffの共同創設者兼共同CEOであるYakirGola氏による:
『結局のところ、人々は時間を大切にしているので、革新を続ける必要があります。』
という指摘は、まぁ、たしかにそうなってきてるなぁ…という気もしないでもありませんが、でも、それって、結局、時と場合によると言いますか、例えば、独身とか一人暮らしの人と、育ち盛りのお子さんが何人もいるご家族の家計を任されてる主婦(や主夫)の方々とでは、かなり話が変わってくると思います。
つまり、宅配サービスじゃなくて、自分でお店へ買い物に行って…
「こっちのスーパーの方が、同じ商品が50円安くてお得で、ハッピー」
とか、
「実際に、スーパーやお店を訪れて、いろいろな品物を見てまわることで四季折々の変化を感じたり、最近の流行を垣間見れてハッピー」
のような感覚(心がハッピーになる要素)も、実は、人々はとても大切にしているんじゃないでしょうか?
さらにもっと重要な要素として、地震、台風、大雨等など、大規模な自然災害が頻繁にやってくる日本のような国の場合、万一に備え、非常食になるような食べ物や飲み物をストックしておく必要もあります。
日本では、普段から少し多めに食材や加工品をストックし、日常生活で備蓄を使用し、常に新しいものに入れ替える『ローリング・ストック』という考え方も、今や当たり前でしょう。
まぁ、普通、非常食になるような食べ物や飲み物には、20分の超高速宅配デリバリーなんて必要ありませんし、それが今後さらに速く、10分とか、5分で欲しいとかにもなったりしないでしょう。
実は、上述のCNBCの記事には、9月からニューヨーク市に事業進出した、ロシア生まれのBuykのCEOの以下のような声も紹介されてるのですが…:
Buyk CEO Slava Bocharov said the delivery service is not only faster, it changes how people shop. Instead of stocking up on a week or two of groceries, people can buy what they need in the moment — such as fresh fruit, a loaf of bread or a single steak.
Buyk is a U.S.-based spinoff of St. Petersburg-based delivery company, Samokat, which was founded in 2018. It launched in New York City last month and plans to expand to Washington, D.C., Chicago and Boston.
Bocharov said the company has about 800 dark stores in 25 cities and delivers about 7 million orders each month. In Russia, he said, some of its shoppers don’t have a refrigerator and use the service to buy the perishable items they need each day.
BuykのCEOであるSlavaBocharov氏は、配達サービスは高速であるだけでなく、人々の買い物方法も変えると述べました。 (超高速宅配サービスにより)人々は、1〜2週間の食料品を買いだめする代わりに、新鮮な果物、一斤のパン、1枚のステーキなど、その瞬間に必要なものを(自宅にいながら短時間で)購入できるようになった。
Buykは、(ロシアの)サンクトペテルブルクを拠点とする配送会社であるSamokatの米国を拠点とするスピンオフであり、2018年に設立されました。先月(訳者注:9月に)ニューヨーク市で立ち上げられ、ワシントンD.C.、シカゴ、ボストンに拡大する予定です。
ボチャロフ氏によると、同社は25の都市に約800のダーク・ストアを持ち、毎月約700万の注文を出しているという。 ロシアでは、買い物客の中には冷蔵庫を持っておらず、毎日必要な生鮮食品を購入するためにこのサービスを利用している人もいると彼は言いました。
…という感じで、「超速速宅配サービスの普及により、冷蔵庫を持たない家庭も出てきた」というライフ・スタイルにまで変化が生じているロシアの事例が紹介されてたりしますが、そのような変化は、自然災害の多い日本じゃ、ちょっと想像できない気がしますけど、どうなるのでしょう?
11月初旬に発表されたCoresight Researchによる最新の調査レポートによると、一応、超高速宅配デリバリーの市場規模は、結構、成長しつつあるようでして:
The quick-commerce retail space will generate between $20 billion to $25 billion in U.S. retail sales this year
クイック・コマースの小売スペースは、今年の米国の小売売上高で200億ドルから250億ドル(1ドル=110円換算で、2兆2千億円~2兆7500億円)を生み出すでしょう。
…などと報じるニュースも見られます:

なお、Coresight Research社は、この新しい小売市場を『インスタント・ニーズ配送会社のマイクロ・インダストリー』(
a "micro-industry" of instant-needs delivery firms)と呼んでまして、
現在、その米国市場の70%以上をカバーしている最大手の企業は、Gopuffだと報じてます。
うーむ。
そうだとすると、この200億ドルから250億ドル(2兆2千億円~2兆7500億円)ほどのクイック・コマース市場っていうのは、もっと前から注目を集めている飲食店や、その他、お花屋さんなどの様々な小売店からのデリバリー・サービスを提供する企業、例えば、日本でも有名なUberEats(ウーバー・イーツ)や出前館などのスタートアップ企業(英語では、”Food Delivery Startups”と呼ばれています)による市場、まぁ、仮に名前をつけると「フード・デリバリー・スタートアップ市場」を、ぜんぜん、まったく含んでません。
だって、もし、それを含んでいたら、Gopuffが市場の70%のシェアを持つなんてありえませんから。
米国の「フード・デリバリー・スタートアップ市場」に関連して、以前から度々、ご案内してます創業年別フード・デリバリー・スタートアップ企業のリストは、以下のとおり:
で、気になって調べてみると、コンサルティング会社のマッキンゼーと投資銀行のモルガン・スタンレーの共同調査データに基づく、米国飲食デリバリー市場の売上額(US Food Delivery App Revenue)を発見:
この他にも興味深いデータ、グラフがありますが話がずれてくるので、それらは別記事で取り上げますね。
これによると、2020年の飲食デリバリー市場の売上げ、つまり、市場規模は、265億ドル(約3兆円)とのこと。
これとは別に、さきほどのクイック・コマース市場が、200億ドルから250億ドル(2兆2千億円~2兆7500億円)ほどある…ということなのでしょう。
そして、さらに米国には、この
飲食デリバリー市場にも、
クイック・コマース市場にも含まれていない、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)などの大手小売チェーン店舗の提供する強力なデリバリー・サービスも、多々、存在しまして、上述の
CNBCの記事には、以下のような指摘も:
The companies could challenge grocers, drugstores, convenience stores and big-box retailers — especially those in dense, urban markets. Many have already rolled out ways to get online purchases to people faster. Walmart has a two-hour or less express delivery option. Target owns fast-growing, same-day delivery service Shipt. And Ulta Beauty and LVMH-owned Sephora recently announced plans for same-day delivery of lotion, lipstick and other beauty goods in select markets.
これらの企業(=『超高速の食料品の配達』を提供する企業)は、特に密集した都市部の市場では、食料雑貨店、ドラッグストア、コンビニエンスストア、大規模小売店などの小売業者に、挑戦する(競合する)可能性があります。 多くの人が、オンラインでの購入をより早く人々に届ける方法をすでに展開しています。 ウォルマートには、2時間以内の速達オプションがあります。 Targetは、急成長している同日配達サービスShiptを所有しています。 また、Ulta Beautyと、LVMHが所有するSephoraは最近、一部の市場でローション、口紅、その他の美容商品を同日配達する計画を発表しました。
どうやら、米国では、もともと急速に進化、発展しつつあった店舗からの各種配送、デリバリー・サービスやその市場規模が、コロナ禍で外出禁止の巣ごもり生活が一般化し、不要不急の品々を取り扱う小売店舗が営業自粛してたことなども重なって、さらに、飛躍的に進化、拡大。
いつの間にやら、ニューヨークは、超高速食料品配達サービスの実験場になっているそうですし。
今後、そんなに遠くない将来(っていうか、すでに実用されてる事例もありますね)配送ロボットや、ドローンや、無人トラック、無人自動車などなど、新しいテクノロジーを活用した、新しいデリバリー・サービスも、さらに普及し、一般化していくのかもしれません。引き続き、この分野には注目が必要でしょう。
以下、関連情報、ご参考まで。
新たに注目を集めている超高速の食料品のデリバリー・サービスも、
既によく利用されているUberEatsなどの飲食デリバリー・サービスも、アプリで手軽にオーダー可能なので、ニューヨーカーのスマホには、様々なデリバリー業者のアプリがいっぱい【デリバリー業界関連過去ログ】
■ニューヨークのデリバリー戦国時代、Gorillas、1520、Fridge No More、JOKR… [2021-07-30]
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