前回は、今年初めてNYコミコンに出展した企業、つまり、このコロナ禍でも業績が良く、時代の流れとか最新トレンドに乗っている企業のブースの様子をお届けしましたが、その中でも、特に気になるのが、このベンチャー企業!!!
最近の報道、11月8日付LA Business Journalの記事でも：…と報じられている注目の会社が、アプリ・ベースのライブストリーミング・マーケットプレイス、Whatnot（ワットノット、www.whatnot.com）です。
この記事、いまいち日本語に訳しにくいというか、日本語にすると本来の意味合いから意味が変わってくるような英単語が数多く出てきまして、例えば、「アプリ・ベース」（アプリ上で動く）、「ライブストリーミング」（生配信）、「リセール」（再販）、「マーケットプレイス」（市場）、「ワットノット」（固有名詞なのでそのままワットノット、あと、なぜか”Whatnot”は日本語では「ホワットノット」ではなく「ワットノット」が一般的みたいです）…などなど、気づくと片仮名ばっかりになってしまいまして、重要な情報がスッと頭に入ってこない感じ…。うーむ。
なので、もう少し丁寧にWhatnotについてご紹介してみますと、Whatnotとは、スポーツ・カードやポケモン・カード、そして、ファンコ・ポップ（Funko Pop、先日、実際にNYコミコン会場で１つ1,000ドル以上の値段がついてるFunko Popの品々をご紹介しましたね）のフィギュアなど、主に、コレクター向けの希少価値のある品々を取り扱うオンライン・オークションのライブストリーミングを、誰でもお手軽に開催でき、誰でもスマホのアプリから参加（購入）できるという、スグレモノ。
Whatnot公式サイト上、自社紹介の冒頭にもハッキリと掲げられておりますが：”We aim to enable anyone to turn their passion into a business & bring people together through commerce.”
私たちは、誰もが情熱をビジネスに変え、商取引を通じて人々を結び付けることを目指しています。
Whatnotも公式サイト上で、
”We aim to enable anyone to turn their passion into a business & bring people together through commerce.”（私たちは、誰もが情熱をビジネスに変え、商取引を通じて人々を結び付けることを目指しています）
…との狙いのとおり、いわゆる、マニアやオタク向け、コレクター向けの希少品には、そうでない普通の人々には想像もできないほど大きく、強力な『情熱』（≒可処分所得、つまり、お金）が注がれていることもよくあることでして、それがWhatnotが爆発的に成長し、人気を得ている理由の１つなのかもしれません。
なにしろ、Whatnotは、ごりごりの新興ベンチャー企業でして、今からわずか2年ほど前、2019年12月1日にロサンゼルスで創業したばかり（さらに詳しくはcrunchbase参照）。
当初は、ファンコ・ポップ（Funko Pop）のフィギュアしか取り扱わないという、超マニアックなリセール・マーケットプレイスだったのですが、徐々に取り扱う商品の種類が増え（上述の記事では、現在、15種のカテゴリがあるとのこと）、オークションのライブストリーミングにも力を入れていったところに、コロナ禍が到来!!!
普通の小売業者でしたら、コロナ禍による消費者の外出自粛や巣篭もり生活の広がりとか、不要不急の品々を売る小売店舗の営業自粛は、経営に大・大・大打撃を与える災難にしかなりませんが、ところが、お家の中で楽しめて、コレクター向けの嗜好品（＝多くは不要不急の品々）を売買できるWhatnotは、むしろ、逆に、コロナ禍の間に人気が大爆発し、投資家からの注目を集めて急成長。
特に、今年2021年は、3度の異なる資金調達に成功。過去8か月間に2億ドル（1ドル＝110円換算で220億円）以上の資金を調達し、10億ドル（1,100億ドル）以上の時価評価額に達しました。
上述の記事をもとにもう少し詳しく言うと：Whatnot’s rapidly growing platform has caught the eye of investors. Since March, the company has raised $220 million over three different funding rounds. Its latest round, a $150 million Series C, tripled its total funding and gave the company a valuation of $1.5 billion.
Whatnotの急速に成長しているプラットフォームは、投資家の目に留まりました。 （2021年）3月以降、同社は3つの異なる資金調達ラウンドで2億2,000万ドルを調達しました。 最新のラウンドである1億5000万ドルのシリーズCは、総資金を3倍にし、同社に15億ドルの評価を与えました。
昨年来のこのコロナ禍を、逆に、追い風にして急成長する新しい小売業者の代表例の１つ、とも言えるのかも？
そんなWhatnotの特徴を、一言で表現して：“Twitch meets eBay”、つまり、オークションのライブストリーミングのエンターテインメント性（TwichやInstagram Liveなどですでに大人気）が、手軽にお店を出してコレクター向け商品をオンライン売買できる利便性（eBayなどですでに大人気）と出会ったようなもの…
と言うのは、Whatnotの共同創業者でCEOのグラント・ラフォンテーヌ（Grant LaFontaine）氏。でも、“Twitch meets eBay”という意味、分かりますか？
Twichは、過去ログ『アメリカでは、野球やバスケ等よりE-Sports（ゲーム）の方がより多くの視聴者数を獲得しつつありまして・・・』内で詳しくご案内してますが、その親会社は世界のEコマース王者のAmazon、すでに2017年1月の時点で：Twitchの平均同時視聴者数（average concurrent viewers）は962,000人で、前年同期比22%増、前月比26%増となった。比較のために挙げると、Foxニュース・チャンネルやESPNの2017年の1日の合計視聴者数（total day viewership）は150万人、MSNBCは885,000人、CNNは783,000人ということで、Twichは、もっとも視聴されているアメリカのケーブルTVチャンネルに匹敵する。
…のとおり、要するに、Foxニュース・チャンネル、ESPN、MSNBC、CNNなどの大手ケーブルTV局（＝オールド・メディア）を上回る視聴者を獲得し、急成長を続けるニュー・メディアの筆頭。
また、Whatnotは、Whatnot上のすべての取引から8％の手数料を徴収してるそうで、これは、eBayなどの既存の大手マーケットプレイスと比較すると、かなり良心的な明朗会計の格安手数料。
実は、eBayは、このジャンルの最大手だけありまして、手数料計算がややこしく、結局、割高なことでも有名。
その他の既存の大手マーケットプレイスの手数料との比較も含めた日本語のまとめ記事、例えば、「eBay出品は手数料がややこしい！本当に必要な費用の算出方法教えます」[2021.08.03、アクシグ]によりますと：・ebay【出品手数料】毎月250出品以上から必要（つまり、売れなくても手数料がかかります）【落札手数料】12.35%～15%+0.3$・ヤフオク【出品手数料】無料【落札手数料】8.8%または10%・メルカリ【出品手数料】無料【落札手数料】10％
…となっているそうです。
いずれにしましても、“Twitch meets eBay”という表現は、各ジャンルの王者が出会ったくらい衝撃的で新しいサービス…という意味なのです。そんな背景もありまして、Whatnotも公式サイト上で、自ら、”Whatnot is the future of shopping”（ワットノットは、ショッピングの未来です）と呼んでたりもします。
Whatnotも公式サイト上で、自ら、”Whatnot is the future of shopping”（ワットノットは、ショッピングの未来です）
Whatnotも公式サイト上の自社紹介には、
こんな社員の集合写真も出てまして、ペットのワンちゃんもオフィスに連れていっていいみたい
あと、ちなみに、社名の”Whatnot”、その文字通りの意味は２つありまして、以下のとおり：（１）本や装飾品用のスタンド式の飾り棚（Wikipedia参照）
（２）同じまたは類似の種類の何か、【用例】”sheets, pillowcases, towels, napkins, and whatnot.”
せっかくですので、もう少し、Whatnotの爆発的成長の理由や要因を考えるための材料として、いくつか関連情報をまとめておきますね。
■情熱をビジネスに変える力
この記事の冒頭、最初に指摘しました『
情熱をビジネスに変える』力に関連して、
上述の記事から：
Now, the company has gained hundreds of thousands of buyers and thousands of sellers despite not spending any money on marketing, said LaFontaine. “Logan (Head) designed the product in a way to make it really shareable so that people would share it out to gain natural growth,” LaFontaine said. “Our community really loved it, both sellers and buyers, so with word of mouth it naturally flourished.”
LaFontaine氏によると、現在、同社はマーケティングにお金をかけていなくても、数十万の買い手と数千の売り手を獲得しているという。「Logan（Head、もう一人のWhatnotの共同創業者）は、人々が自然な成長を得るために共有できるように、本当に共有できるように製品を設計しました」、そして 「私たちのコミュニティは、売り手と買い手の双方が、それ（＝Whatnot）を、本当に愛していたので、口コミで自然に繁栄しました。」と、LaFontaine氏は述べています。
→何かのファン、マニア、オタク、コレクター向けのマーケットプレイスは、信頼できる適切なものを用意できれば、マーケティングにお金をかけなくても口コミで自然に成長し、繁栄しえる…とのこと。実に興味深いです。
なお、資金調達に成功したWhatnotは、いよいよマーケティングにもお金をかけられるようになったそうで、その最初の一歩的な取り組みの１つが、今回のNYコミコンへの初出展なのでしょう。
NYコミコンに初出展したWhatnotブース、プロレスとか、ボクシング用のリングもあります
こんな感じの「チャンピオン・ベルト」のようなものが描かれたボードも出てまして…
何かと思ったら、会場でプロレスの試合を開催したようです（公式インスタグラム 参照）
たぶん、プロレス関連のマニア向け、コクレクター向けの品々も取り扱っているということなのでしょう
■たった１年でインストール数が21倍⁉米国トップにAccording to San Francisco-based market intelligence firm Sensor Tower Inc., Whatnot was the most downloaded live commerce app in the United States between January and September, beating Hollywood-based Commerce Media Holdings, better known as NTWRK, and West Chester, Pa.-based QVC Mobile Shopping, the previous year’s top two for the same time period. Whatnot saw 21 times the number of installations in this nine-month period in 2021 than it did in 2020, reaching 580,000 in 2021 compared to 27,000 the year before.
サンフランシスコを拠点とするマーケット・インテリジェンス会社SensorTower Inc.によると、Whatnotは、（今年2021年）1月から9月の間に米国で最もダウンロードされたライブ・コマース・アプリであり、昨年の同じ期間にトップの２社だったNTWRKとしてよく知られているハリウッドを拠点とするCommerce Media Holdingsや、ペンシルベニア州ウエストチェスターを拠点とするQVCモバイル・ショッピングを上回りました。 2021年のこの9か月間のインストール数は、2020年の21倍であり、2021年には前年の27,000に比べて58万に達しました。
■ライブ・コマース市場自体が、急成長中
Compared to the sector’s rapid growth in China, live commerce in the United States across all app stores is still a small market. But the U.S. livestream retail sector is expected to reach $11 billion by the end of 2021 and grow to $25 billion by 2023, according to New York City-based research and advisory firm Coressight Research. In comparison, China’s livestream retail sector was estimated to be worth $171 billion in 2020 and is expected to reach $423 billion by 2022, according to New York-based consulting firm McKinsey & Co.
中国でのこのセクターの急速な成長と比較すると、すべてのアプリ・ストアでの米国のライブ・コマースはまだ小さな市場です。 しかし、ニューヨーク市に本拠を置く調査および顧問会社のCoresight Researchによると、米国のライブストリーム小売セクターは、2021年末までに110億ドルに達し、2023年までに250億ドルに成長すると予想されています。 これに対して、ニューヨークを拠点とするコンサルティング会社のMcKinsey＆Coによると、中国のライブストリーム小売セクターは2020年に1,710億ドルの価値があると推定され、2022年までに4,230億ドルに達すると予想されています。
→つまり、「ライブストリーム小売セクター」の市場規模は、米国で110億ドル（2021年末）→250億ドル（2023年までに）、わずか1～２年で2.3倍に増加するとの予測。さらに、中国では、推定1,710億ドル（2020年時点で米国の15.5倍）→4,230億ドル（2022年までに）との予測で、わずか1～２年で米国よりも成長して約2.5倍の市場規模へ⁉
■エンターテインメントとコマースの融合
“Whatnot’s fusion of entertainment and commerce has created an incredible growth flywheel that accelerates growth on both sides of their marketplace,” Laela Sturdy, general partner at CapitalG, said in a statement. “Shoppers spend hours each week engaged in the app’s content and community while sellers achieve stronger monetization than is available on other channels.”
（Whatnotへ投資しているベンチャー・キャピタル・ファンドの）CapitalGのゼネラル・パートナーであるラエラ・スターディ（Laela Sturdy）氏は、声明のなかで、「Whatnotによるエンターテインメントとコマースの融合は、市場の両側で成長を加速する驚異的な成長のフライホイール（日本語では「弾み車（はずみぐるま）」あるは「勢車（せいしゃ）」、さらに詳しくはWikipedia参照）を創り出しています」、そして「買い物客は毎週何時間もアプリのコンテンツやコミュニティに参加し、売り手は他のチャネルよりも強力な現金化を実現しています。」と述べています。
→「エンターテインメントとコマースの融合」というアイデア、考え方を、実際に具体化したのが、Whatnot。新しい小売業のあり方の一例。 じゃ、他に類例、競合他社は？…については、大分長くなりましたので、次回へ。
〔ご参考〕
【NYコミコン2021特集】
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