語り尽くせないニューヨークの魅力。その昔
、「この街の目には見えないパワーというか魅力を伝えたい」というコンセプトで、ウェブサイトを立ち上げた友人がいます。諸事情あって、そのウェブサイトは閉鎖してしまいましたが、彼が書いたコラムには「目には見えない魅力」が確かに詰まっていたと私は感じていました。先日、その友人と話す機会があり、彼のコラムを1つ、このブログで紹介してみようという話になりました。タイトルは、「子どものチカラ」。今からもう5年前の1999年11月に書かれたものです。それでは、どうぞ。
「私が作ったの。一ついかがですか。たったの50セントなの。」
ボクが、そのちびちゃんに会ったのは、メトロポリタン美術館前の広場でした。
マンハッタンにはセントラルパークという巨大な公園があり、メトロポリタン美術館はその東の端にあります。ストリート・パフォーマーや自作の絵を売るアーティスト達が集まり、とても楽しい雰囲気です。週末の午後、メトロポリタン美術館の前を通りかかると、小さな女の子がみかん箱くらいの机のまえにちょこんと座っているのが目にとまりました。年齢は5~6歳でしょうか、お洒落に毛皮のコートなんか着ていて、お人形さんみたいな女の子です。
「お嬢さん。君も何か売っているの?」
まあ、そんなことはないだろうと思いつつ声をかけると、
「うん、そうだよ。絵を売っているの。」とのこと。
女の子は、小さなカバンを広げて一枚の紙を手に取りました。良く見るとぬりえです。ボクはなんじゃこりゃと思いつつも、
「可愛いねえ、君が描いたの?」
「うんっ。」ニコニコしながら女の子は答えます。
その一枚の紙には、色とりどりのマーカーでぬられた”ネコ”や”ウサギ”や”クマ”の可愛らしい絵が描かれていました。
「私が作ったの。一ついかがですか。たったの50セントなの・・・」
女の子、キラキラ瞳を輝かせています。
「このクマいいね。気にいっちゃった。」
「うんっ、私もそのクマちゃん好き。」
女の子は、せかせかとちっちゃなカバンからはさみを取り出し、クマを丁寧に丁寧に切り取ってくれました。彼女の熱意に負けて、ボクは1つ買ってしまいました。気付くと横に女性が立っていて「ありがとう、買って頂いて私も嬉しいわ。」 聞いてみると、この女の子のお母さんでした。この女の子は絵を描くのがとても好きなのだそうです。多分、絵を描くのが大好きなちびちゃんにせがまれて、メトロポリタン美術館の前で絵を売ることになったのでしょう。
メトロポリタン美術館の前で絵を売るなんて、ボクにはちょっと出来ません。ごっついお兄さんが現れて「場所代払え」なんて言われたらどうしようとか、そもそも売れなかったら・・・、なんてふうに考えてしまいます。でも、ちびちゃんの笑顔からはそんな心配ちっとも感じられません。
それなりに人生経験があるためか、大人であるボク達は新しいことにチャレンジする気持ちをどこかに忘れてしまいがちです。失敗したらどうしようとか、誰もやったことないことなんて不安だよとか言って、新しい世界に飛び込むことに慎重(臆病)になります。何をするにしても、以前にやった通りでいいや・・・と思ってしまう。
でも、当たり前ですが、子どもにとって前例というものはありません。特にこの小さな女の子のような場合はそうでしょう。毎日、毎日、ほとんど全ての出来事が初めての経験です。そこには、常に新しい世界が待っていて、いつも希望に満ち溢れた未来と無限のチャンスがある。すごいことです。スーパーマンみたい。でも、誰もが昔はスーパーマンだったはずなんです。
このお母さんとちびちゃんが、笑顔で微笑み合う姿を見た瞬間、2人が幸せな光に包まれているようで、しばらく見とれてしまいました。このお母さん、娘の夢を共有し、楽しむことが出来るのです。すごいよ、このママ。「馬鹿いってるんじゃないわよ」などと決して娘に言わない人なのでしょう。
…………………………………
ちびちゃんから買ったぬりえは、シールになっていました。今、それは、ボクの手帳の裏表紙に貼られています。黒表紙の胸ポケットに入るサイズのビジネス手帳には、明らかに不似合いな代物ですが、とても気に入っています。とぼけたクマには斬新な配色が施されていて、なかなかアーティスティックな感じすらします。
「子どもの心を忘れていませんか?」
このシールを見ると、そう問いかけられてるような気になります。
知らず知らずのうちに、少しずつどこかへいってしまう子供の頃の気持ち、「夢」を見ることの素晴らしさや大切さを、ボクに語りかけてくれる50セントの宝物。
ちびちゃん、サンキュウね。
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